「宝焔さま、やはりこちらにいらっしゃって…」
紅玉は部屋に入ってすぐ異変に気づき、笑顔を消した。
床に倒れた血まみれの王を見て、ゆっくりと宝焔に顔を向けた。
「紅玉…、来ていたんだね。こちらへおいで」
「ほ、宝焔さま?これは一体」
戸惑いながらも、紅玉はおそるおそる宝焔に近づいたが、床に転がる香王にどうしても視線がいき、足を止めた。
「僕に用があったんだろう?何?」
立ち止った紅玉に、宝焔が代わって近づいて行った。
紅玉は思わず後ずさりした。
すぐ側でこの国の王が、そして彼自身の父が倒れているというのに、宝焔はいつもと同じ、冷静な態度で柔らかな笑みを浮かべているのである。
それに、手に持っている短剣は。
混乱してしまった紅玉は、どうしたらいいかわからず、涙を浮かべて首を横に振った。
「あの、あの」
宝焔は震える紅玉の手首をとり、そばへ引き寄せた。
「安心して。君はまだ殺さないから」
その言葉に、紅玉が目を見開いたとき。
宝焔はそのまま、紅玉を押し倒した。
何がなんだかわからないでいるうちに、宝焔は紅玉に短剣を握らせ、その手を掴み、あろうことか自らの体に短剣を突き刺したのである。