「そんなことをしなくても、ここへあの皇子が来たときに奪っておけばよかったではないか。香蘭姫を捕えれば、すべてはすむ話なのだから」


宝焔はため息をつき、憐れみの表情で香王を見た。


そして懐に手をやり、何かを探り始めた。


「父上はわかっておられませんね。いや、わかるはずもないのか。あなたは部外者なのですから」


「何……、うっ!?」



突然体に走った衝撃に、香王は顔を歪ませた。



宝焔が、香王の胸元に短剣を突き刺したのである。



血がじわりと滲んでくるのを見て、香王は信じられないという顔で宝焔を見上げた。


宝焔は血の気がなくなる王を前に、微笑みを浮かべた。


「僕の望みは三国の統一だけではありません。五百年前の悲劇の再現。それが僕の願いであり、希望であり、約束なのですから」


短剣を引き抜き、香王を椅子から突き落とした。




「邪魔者は消えてもらいましょう」




短剣についた血を拭うと、血だらけになった布をこと切れた王の上に投げ捨てた。



そのとき、部屋の扉を叩く音がし、宝焔は迷いもなく部屋の中に入ってくるように告げた。


すぐに扉が開き、笑顔の紅玉姫が姿を現した。