王宮の中は騒がしい。
鈴国の皇子が裏切り、姫と共に姿を消したという情報が入ってきたばかりだった。
「忌々しい。鈴はどちらにつくつもりじゃ」
香王は顔を真っ赤にして、怒りを顕わに机に拳を叩きつけた。
部屋の隅に控えていた従者が怯えた表情をして身を縮めている。
「父上、国王たるもの、このようなことで動揺なさってはなりませんよ」
その隣に立っていた宝焔皇子が父王を宥めるような声を出した。
そして、怯えている従者に部屋を出るよう指示すると、従者は安堵して部屋を出て行った。
扉が閉まり、王と二人きりになると、宝焔は王の耳元で囁いた。
「大丈夫です。香蘭姫は自分からここへやってきます。これも僕の筋書き通りのことですよ」
「お前の?どういうことだ」
まだ興奮がおさまらない香王は、宝焔を睨むように見上げた。
睨まれても、宝焔は気分を害した様子もなく、柔らかな口調で述べた。
「珀伶皇子は‘約束の鈴’を持っています。しかしこの前会ったときには、彼は何も知らないようだったし、鈴も半分しか持っていなかった。あの愚かな国の風習で、香蘭姫に半分渡したのだと思います」
「半分渡した?それでは鈴は、使えないではないか」
「ですが、香蘭姫と接触し、二つ揃った鈴は目を覚ますでしょう。そして宝はこの国に自らやってくるのです」