森のどこかで、梟が鳴いている。
宮は夜の静けさに包まれて、見張りの兵が持つ松明の仄かな橙色の灯りだけが、宮を暗闇の中に浮かび上がらせていた。
宮中の人も猫も眠る中、華京は閉じていた目を開けた。
どうにも目が冴えて眠れないので、体を起こし、燭台に火を灯した。
櫛を手に取って髪を梳きながら、はあ、とため息を漏らした。
三人を宮から出したはいいが、彼らが無事かどうか、気が気でない。
行かせるべきではなかったかと、後悔する。
徐に丸い、縁取りに装飾が施された鏡を手に取り、覗き込んで、華京は鏡を取り落しそうになった。
「ハル!?」
かろうじて鏡を落とさずにすんだものの、その鏡には自分の顔ではなく、よく見知った少女の顔が映し出されていたのである。
ハルは鏡の中でにっこり笑って、手を振った。
「夜遅くにごめんね。華京が起きていてよかったよ」
「な、なんだこれは……」
ハルの顔が映っているだけではなく、声まで聞こえる。
華京が目をぱちくりさせているのを、ハルは満足そうに見た。
「あたしは鏡だからね。こういうのは朝飯前よ。お茶の子さいさいよ」
楽しげな笑顔に鏡を割りたくなる衝動にかられたが、なんとか堪えて鏡を台に置き、向き合った。
「それで、どうしたのだ。こうやって連絡をとってくるなんて……何かあったのか?」
華京が心配そうに眉を下げたので、ハルは真面目な面持ちになった。