「信頼されると、気持ち悪い」


「いいからさっさと行け」


秋蛍に冷たい目で見られて、ハルはやれやれと首を横に振ったあと、目を閉じた。


それからすぐに動かなくなってしまい、香蘭はびっくりしてハルを抱えたが、すぐに自分が鏡に入り込んだときと同じ状態になったのだとわかった。


「これは俺が担いでいこう」


秋蛍が香蘭からハルを受け取り、本当に肩に担いだ。


「それで、どこに行くの?」


香蘭が尋ねると、秋蛍は真っ直ぐ香蘭を見た。


面と向かって話すのは昨日のあのとき以来で、黄緑の瞳と目が合うと、香蘭は顔が赤くなるのを感じて俯いた。


「香国だ。香壺がそこにあるなら、なんとしてもそれを手に入れないといけない。それに……すべては、あそこだろうから」


最後の言葉を低く呟いた秋蛍に、香蘭は顔を上げて秋蛍をみた。



表情に暗い影を落としている秋蛍を見て、なぜか胸がざわめいた。


「すぐに屋敷を出る。憂焔、国境を出たらお前が案内しろ」


「わかってる」


二人とも、心なしか纏う空気が重い。


珀伶もそう感じているようで、香蘭と顔を合わせた。


胸のうちに嫌な何かを抱えながらも、先に歩き出した二人を追って屋敷を抜け出し、夜明け近い闇の中に姿を隠した。