「憂焔皇子。これまで妹を守っていただいたようで感謝する」
「いえ。珀伶皇子こそ、香蘭を預かって頂いて感謝しますよ。迎えにきましたのでこちらに渡していただけませんか」
強気な憂焔の態度に、香蘭は慌てて珀伶の様子を窺った。
「お兄様、こちらの方は秋蛍様よ。私の師匠なの。このかわいい子が、ハル」
「香蘭の大切な者たちなのか」
「そうよ。だからお願い、傷つけないで」
「傷つけたりしないよ。私はもう、香蘭を鈴へ連れていこうとは思っていない」
「え?」
間抜けな声を出したのは、香蘭だけではなかった。
憂焔もハルも、ぽかんと口を開けていて、秋蛍だけがいつも通りの態度でそこにいた。
てっきりすぐに兵が呼ばれて、一戦交えるものとばかり思っていた香蘭たちは、予想外のことに思考が停止した。
「香蘭、お前にした約束を違えるつもりはないよ。敵を欺くにはまず身内からってね。隙を見て、二人でここを抜け出すつもりだったんだ」