「少し待ちなさい」
香蘭が珀伶のほうへ身を乗り出したところで、珀伶は香蘭を制した。
目つきが変わり、鋭く辺りを窺っている。
「いつまでこそこそしているつもりだ。隠れずに出てこい」
珀伶の低い声に、香蘭はお腹のあたりでひやりとしたものを感じた。
まさか、珀伶が香蘭を捕えたと聞いた香国が、もう香蘭を奪いに来たのだろうか。
そうだとしたら、珀伶の命も危ない。
香蘭は慌てて立ち上がり、珀伶の腕を引っ張った。
「お兄様、逃げて!」
「お久しぶりです、珀伶皇子」
聞こえてきた声に、香蘭ははっとして動きを止めた。
声がしたほうへ顔をむけると、かたりと床が抜け、そこから現れた人物は。
「ゆ、憂焔?」
「よかった。元気みたいだな」
「何を悠長なことを言っている。そんな暇があったらさっさとそこをどけ」
憂焔を手荒にどかし、ハルを抱えた秋蛍までもが床下から現れた。
目をまるくして見ていると、衣に着いた埃を払い、顔をあげた秋蛍の黄緑の瞳とぶつかった。
助けに来てくれたのだ。
皆で…。
そこで香蘭は珀伶の腕を掴んだままだったことに気づき、顔を赤くしてその腕を離した。