「怒ってないわ、お兄様。それより、お兄様が私を憎く思ってなかったことに驚いてるの。私は恨まれても仕方のないことをしたのに…」
「恨む、か。私は今、混乱しているんだよ。一体何を信じたらいいのかわからなくなってしまった」
珀伶は俯き、瞳を揺らした。
香蘭の手を握る力が強まり、それがまるで助けを求めているかのように感じられて、香蘭はそっと体を起こした。
「香蘭、まだ回復していないだろう。無理をしてはいけない」
起き上がった香蘭を咎め、また横にさせようとする珀伶の腕を、香蘭は押し戻した。
「お兄様、私の話を聞いて欲しいの」
「はなし?」
珀伶は眉を寄せながらも、香蘭の手を離し、香蘭の目を真っ直ぐに見た。
珀伶がどうやら聞いてくれるらしいことを悟ると、香蘭は珀伶と向かいあうようにして布団の上に居住まいを正した。
「私は、真実だけを話します。これからどうするかは、お兄様がお決めになってください」
霞みの中に消えてしまいそうな、静かな囁き声でそう告げた。