藤松のこめかみに青筋がたって、香蘭はしめたと鏡を持ち直した。


繊細な流れを操る者にとって、自分の気が乱れることほど邪魔なことはない。




相手が鈴をうまく扱えないうちに、やりとげなければ。




香蘭は自分に鏡面を向け、決意してそれに自分を映した。


「ハル…!」


香蘭は必死で鏡と向き合った。



この間、ハルは全ての鏡と通じていると言った。


昨日見た少女の姿がもしも本当にハルだとしたら、ハルと話すことができるかもしれない。


「お願い…、お願い、ハル…」


香蘭は鏡の中にハルを探した。


香蘭の姿は鏡に映っていたが、香蘭にはそれが見えないほどハルを探すのに必死だった。



そしていつの間にか香蘭の精神は鏡の中に入り込み、鏡の世界を走り回った。



鏡の中には暗闇が広がり、奥に光が見えた。


その光に向かって走ると、小さな背中を見つけた。香蘭は走りながら力の限り叫んだ。


「ハル!」


銀色の髪が揺れ、ハルが不思議そうにこちらを振り返った。


「リン!」


振り返ったハルは驚きに目を見開いている。


「どうしてココにいるの?自分から入ったの?」


「今それどころじゃないのよ。よく聞いて。私、お兄様に捕まっちゃって、鈴国に連れていかれそうなの!」