香蘭はいつものように、短刀を片手に走りまわっていた。

勝負の相手は自分を喰おうと目論む大豹で、なんとか香蘭の隙をついて仕留めようと、鋭い牙を光らせながら香蘭と対峙していた。



風が吹き、野がざわめいて木の葉が舞う。


香蘭は風に乗ってきた木の葉に一瞬気を取られ、大豹はしめたと言わんばかりに香蘭に飛びかかろうと地面を蹴った。


襲いかかってくる大豹に、香蘭ははっとして短刀を豹に向けた。



いちかばちかの大勝負――



香蘭が覚悟を決めたとき、ヒュッと風切音がして、大豹の喉元に矢が飛び込んできた。


矢は豹の喉に深々と突き刺さり、豹は呻き声をあげることもなくそのまま地面に崩れ落ちた。


香蘭は倒れて動かなくなった豹を目をまるくして見つめながら、自分も地面に膝をついた。


そして緊張のあまり体内に留めていた息を吐き出して、ほっと力を抜く。


「もう、なんてことするのよ、お兄様。私の獲物だったのに」


彼女は後ろを振り返り、豹を仕留めた人物を見上げた。

そのときにはもう恐怖を感じていたことなどなかったかのように、むっと口を尖らせていた。