それからは、サークルの写真の端々に小西さんの姿を見つけた。
別に並んで写ってるんじゃないし、カメラ目線でもない。
だけど・・・
たとえ写真の隅っこだとしても、彼女の姿を認めてしまうと気持ちがざわついてしまう。
どんなに好きでも傍にいられない私。
付き合ってなくても、すぐ傍にいる彼女。
自分で選んだ道だとしても、押し潰されそうになってしまう心。
小西さんは気軽に淳ペーと話をするんだろう。
そこに恋愛感情が無いとしても、私は焦ってしまう。
私にはメールしかない。
メールでしか淳ペーと繋がれない。
どうしたら安心出来る?
何があれば安心出来るの?
問いかけてみても答えなんてどこにもなくて。
吉武くんが小西さんと付き合ってくれれば・・・。
!!!
そうだ!
その手があった。
だから訊いたの。
“吉武くんは小西さんに告白しないの?”
それに対する淳ペーからの返事は
“裕は引っ込み思案なトコあるねん。
せやから…自分からは動かへんのんとちゃうかな?
小西はある意味、有名人でな…。
『学祭のミスコンに出ろ』って周りがうるさいのなんのって。
裕は小西の事『高嶺の花』って思てるフシがあるから…難しいんちゃうかなぁ?
でも裕の知らんトコで、気持ちはバレバレみたいやけどな!(笑)”
バレバレって・・・?
“まぁ、裕が小西に惚れとんのは有名っちゅうこっちゃ。
多分、小西本人も気付いとるやろ。
せやけど本人が言わん事には小西も動かれへんやん?
どんだけ自意識過剰やねん、って話になるから(笑)”
吉武くん、動こうよ!!
私の為にも、ぜひぜひ動いて欲しい(切実)
“それじゃあ淳ペーが取り持ってあげたら?
そしたら吉武くんだって・・・”
“あのなぁ、俺…裕には自分で気付いて貰いたいねん。
あいつはエエ奴やから、もっとエエ女と付き合って欲しいと思てるねん。
小西はおススメでけへん。実咲かて分かるやろ?”
分かるやろ?…って。
そりゃ、小西さんは苦手ですけど~。
“俺は裕の味方でいたいけど…付き合うんやったらもっとマトモな女を勧めたいねん。
その為には裕自身が『小西はマトモやない』って気付かなアカン。
お前やったら俺の気持ち、分かってくれるやろ?”
そんな風に言われたら・・・
“分かった”
こう答えるしかないじゃない!!
本当、淳ペーったらズルいんだからっ!
あーあ、こうなったら早く気付いてよ、吉武くん!!
そのまま悶々とした日々を過ごしていた私。
連絡は突然だった。
お父さんの妹である由美子叔母ちゃんからの電話。
おばあちゃんが転んで骨折してしまったらしい。
骨折自体は大した事は無かったけれど、年が年なので大事をとって入院したみたい。
軽い気持ちで受けた検査。
そこで病に侵されている事が分かった。
長くて半年。
短ければ・・・
今は5月。
今年いっぱい、持たないなんて・・・。
後悔したくないから、と
お父さんは一時帰国を決めた。
数日しか滞在出来ないけれど、もしかしたら淳ペーに会えるかもしれない。
不謹慎だって分かってる。
おばあちゃんがこんな状態なのに。
だけど・・・
淳ペーに会いたい。
まさか2ヶ月程で日本に戻って来るなんて・・・。
5年は戻れない覚悟だっただけに、なんだか拍子抜けしてしまう。
急いで訪れた病院。
久しぶりに会ったおばあちゃんは、とても元気そうで。
「転んでケガしたぐらいでイギリスから帰って来るなんて…。
あたしゃ、お前をそんなバカ息子に育てた覚えはないよ!!」
憎まれ口をききながらも嬉しそうなおばあちゃん。
どこからどう見たって余命半年だなんて思えない位元気そうなのに。
おばあちゃんに悟られないように、にこやかに過ごす。
「こんなに簡単に帰国出来るんだったら、成人式にも帰って来なさいな。
実咲ちゃんの振袖姿を見なきゃ、おばあちゃんは死んでも死にきれないよ」
「縁起でもないよ、おばあちゃん。
せめて振袖姿より花嫁衣裳にしようよ!
いつになるか分かんないから、当分おばあちゃんには元気でいてもらわなきゃ!」
「ホントだねぇ~。実咲ちゃんの花嫁姿、ぜひ見たいわ~!
で、実咲ちゃん。 お相手は? いるの?」
!!!
ゲホゲホッ
無駄にむせてしまったのは仕方無いと思う。
「碧い目の人?」
「ち、違うよ~(慌)
フ、フツーの日本人だよっ!!」
「あらあら遠距離!?
それじゃ、今回しっかり会って来ないとね!」
!!!
おばあちゃんが悪魔に見えるんですけど~。
「大丈夫ですよ、おばあちゃん。
明日、会う約束してるみたいですから!」
お、お母さんっ!!
よ、余計なコトを――っ!!
「実咲っ、それは本当なのか!?」
お父さんが慌ててるじゃないの!!
「し、知らないっ!!」
きっと今、私の顔は真っ赤だと思う。
実は淳ペーとは明日会う事になったんだ。
10時に、淳ペーの最寄駅のカフェで待ち合わせした。
明日は土曜日。
本当は午後から一限だけ授業があるらしいけど、休んでくれるって言ってた。
それだけで優越感。
私って単純(笑)
待ち合わせして、一緒にごはんを食べて。
それからパソコンに取り付けるカメラを買いに行くんだ。
その為に自分専用のパソコンもゲットしたし(^o^)v
準備は万端♪
顔を見て話をすれば不安だって・・・。
きっと消えるって
勝手に信じ込んでた私。
でも・・・
現実は、そうじゃなかった。
2ヶ月半ぶりに会う淳ペー。
毎日のようにメールはしてるけど、いざ面と向かうとどうしよう・・・。
どうしたらいいのか分かんなくなってきた。
ドキドキがハンパ無くて…
待ち合わせより20分も早く着いてしまった。
昨日、病院の帰りに電話したら
夜にサークルの新歓コンパがあるって言ってた。
「コンパやからって心配すんな!
どうせ一次会で帰るから遅くならへんし。
明日は10時やったな?
初デートに遅刻なんてシャレにならんからな!」
初デート!?
そんなに臆面も無く言われたら…恥ずかしいじゃん!!
カフェラテを飲みながら、淳ペーを待つ私。
会ったら最初になんて言おう?
そんな事にも照れてしまう。
そうこうしてるうちに10時。
淳ペーはまだかな?
何度も何度も時計を見る。
時間は10時20分。
なかなか来ない淳ペー。
どうしたんだろうって思いつつ、店の中を見渡す。
当然ながら公衆電話なんて無い。
今回帰って来て不便だと思ったのは、携帯を持っていない事だった。
いざ電話しようと思っても、公衆電話はなかなか見つからない。
それよりも困ったのは、私からは連絡が出来ても、私宛の連絡は受け取る事が出来無いって事。
こんな事なら、空港で携帯をレンタルすれば良かったってつくづく思う。
時計の針は10時半を過ぎた。
淳ペーって結構 几帳面だったよね?
部活の集合だって遅れたなんて殆どなかったし。
どうしたんだろ。
機転の利く淳ペーの事だ。
やむを得ない事情で遅れるなら、この店に連絡を入れるだろう。
11時を過ぎた。
イヤな予感がする。
1時間も待たせて連絡が無いなんて。
もしかして・・・
事故?
イヤだ、そんなの。
だけど・・・
絶対に淳ペーらしくない。
こんな事って
6年間一緒にいても一度も無かったもの。