「敦。私のこと、

 少しでもいいから

 思い出して……」


私の小さな呟きが

胸の奥をぎゅっと強く締め付ける。


淡々と話す川岸教授の声も

だんだんと遠のいていく。


私は視線を机に落とすと、

ノートの上でペンを走らせる。


“越智敦”


ノートに書いたその名前を

ただただじっと眺めては、

私の口から

数え切れないほどの溜め息が漏れた。



今までのどの講義よりも

とても長く感じた、

90分間の講義の終わりを

告げるチャイムが流れた瞬間、

私は素早く後ろへと視線を向けた。


『敦――……』


しかし、私の期待とは裏腹に

敦の姿はもうこの教室の

どこにもなかった。