「うん、分かった」
私はこくっと頷いて、ドアを開け店の中に入って行く皐月くんの後ろを付いて行った。
左の手は皐月くんに握られたまま。
そんな些細な事が嬉しかった。
裏口から入る店の中は少し埃っぽかった。
床は今時の御時世に相応しく無く、木の板で出来ていた。
“たまに油引きするんだけど、どうにも匂いが取れなくてね”
皐月くんは通路の邪魔になっていたモップとバケツを足で器用に退かした。
「何か小学校に通ってた頃みたい」
教室の油引きを毎年、学期末にやらされていた事を思い出して微笑むと。
「俺もそう思った」
皐月くんも小さく微笑んでくれた。
吸血鬼も普通に学校に通ってたりするんだ…。
皐月くんの発言でそう推測する事が出来た。