「高橋、どうした?」

 先生が近づいてきたので俺は慌てて言い訳した。

「先生、すみません。僕がからかったせいです。高橋さん、ごめんね」

 俺がそう言うと先生は納得したのか、すぐに教壇へ戻った。こういうとき、優等生の看板はとても有効だ。先生からすれば真面目で努力家でおとなしい舞は非の打ちどころがない生徒だしね。

 舞を見ると無表情だが、むしろ眼鏡の奥の目は据わっているようだ。

 これは……さすがにヤバい。

「……怒った?」

「…………」

 ――あー、これはかなり怒ってますね。こういう人が怒ると本当に怖いよね。

 そう思いながらも、俺の軽い口から軽い言葉がつい滑り出る。無視されててもフォローしなきゃダメでしょ、一応。

「ごめん。本当は忠告しようと思ったんだ、『落ちるよ』って」

 舞は俺をキッと睨んでまた視線を背けた。

 さすがに胸がズキッと痛んだが、それと同時に彼女が感情を表してくれたことが嬉しかった。このチャンスを逃す手はないって思わない?

「だって高橋さんが俺のこと避けるから」

 舞の表情の変化を見逃すまいと俺は彼女を見つめ続けた。彼女は俺が視界に入るのを頑なに拒んでいる。

「ちょっと傷ついたな。そんなに俺のこと嫌いなわけ?」

「嫌いです」

 舞は間髪入れずきっぱりと答えた。

「即答かよ」

 ため息が漏れる。ここまではっきり言われると俺の心もさすがにヘコむというものだ。いきなり嫌いじゃどうしようもない。

 ――やっぱりさっきのは、やりすぎだったな。

 俺は珍しく出来心からしてしまった悪戯を激しく後悔していた。



「あの……」



 ――え?

 舞がおどおどと口を開く。なぜか俺を気遣うような視線を送ってきた。