「そりゃそうだけど……」

 確かに、アンタの言うことは正しい。正しいが、教科書に書いてあることを読んだだけで理解できたら学校の先生は必要なくなるじゃない?

「書いて覚えるのよ!」

 そう! 書くと覚えるんだよ!! 私は勝ち誇ったように答えた。

 しかしソイツの答えは「ふーん」とそっけなかった。

「まぁ、いいや」

 ……いやいや、待てよ。全然良くない。

 私はようやくソイツとコミュニケーションを取るはめになった緊急事態を思い出した。

「あの、私、黒板の字が読めないところあるんだけど」

「ああ!」

 なぜだかソイツはとても嬉しそうに返事をした。顔を見るとぱーっと笑顔になって、また私は心臓が痛くなった。

「いいよ、読んであげるよ」

「ありがとう」

「いいよ、お礼なんて。ほっぺにちゅーとかで」



 ……は?



「……え? スルーしちゃう?」

 ていうか、ナンデスカ? ほっぺにちゅーって??

「じゃあ、やめた」

「ま、待って!」

 慌てて私は自分の意識を現実に引き戻した。困るのだ。読んでもらわないと。

「私、数学苦手なの」

「ふーん。いいこと聞いた」

 ソイツは悪魔のような笑みを浮かべた。……いや、コイツは悪魔だ、間違いない。