え?
何かの間違いかと思ったが、間違いじゃない。
目を上げるとソイツと目が合った。
びっくりして目が離せなくなった。心臓が壊れるんじゃないかと思うくらい激しく動き出す。
「やっとこっち見たね」
……はい? 今なんと??
「ずっと『いつ気がついてくれるのかな』と思ってたんだけど」
……ずっと? っていつからですか?
「1時間目からずっと見てたのにな」
……何を?
私はソイツと目が合ったときから硬直したように瞬きすらしてなかった。
これが『鬼に魅入られる』というヤツか? と思う。
そこではっとして私はようやく瞬きをして、とりあえず呼吸をした。呼吸もしてなかったのか、私。死んでしまうぞ。
「えっと、板書写さないの?」
小声で言った。
ソイツはニコっとして「なんで?」と聞き返してきた。
やめて。そのニコっていうのは! ……何だか心臓が鷲づかみにされた気がする。
「高橋さんこそ、なんでそんなに一生懸命ノート取ってるの?」
「普通ノート取るでしょ?」
「そう?」
……そう? って……じゃあ、何? いつも取ってないわけ?
「だって教科書にも書いてあるでしょ」