優衣か・・・


昼休みでも時間は限られている。
吹奏楽部がわざわざその時間を利用してまで音楽室を使うとは思えない。



するとたまに勝手に音楽室に侵入しては、ピアノを弾いている弟しか考えられない。


時には屋上で一人バイオリンを弾いていることもあるのだ。


昼休みによくここにいる俺のことはわかっているはずだが、兄に何を言われようが時間があれば楽器を触っていたいらしい。



許されることではないはずだが、教師も生徒指導員も黙認していた。

といっても最年少で数々の音楽コンクールを制覇している弟の演奏はプロ並だった。

誰もその心地よい演奏をあえて止めようなどと思う者がいないだけ。

本人もそれをわかっているのかは定かでないが、兄弟である俺たち三人も特にそのことで彼に何か言うことはなかった。



それにここは聖蘭音楽学園、音楽を主として学ぶ由緒正しい学園だ。


音楽のことで多少無理なことをしてもお咎めはない。

なぜならば、この学園の創立者が俺たち兄弟の父、神咲悟なのだから。

そういう理由でひいきがあると生徒側から苦情がありそうなものだが、俺たち四人とも人当たりがいいせいか、特に何か言われることはなかった。



「あ・・・しまった・・・。」

思わずそのピアノの音に耳を傾けていると時間を忘れていた。

白いノートは風に吹かれ、パラパラとめくれた。


「結局一行も進まなかった・・・。」


軽くため息をつき、予鈴が鳴る前に急いで教室へ戻ることにした。