この頃、俺はまだ……。
親に捨てられた事を、受け入れられないでいた。
まだ、いつか両親が迎えにきてくれると信じていた。
だから。
“みなしご”なんて死語で。
俺のかすかな希望が、汚された気がしたんだ。
……そうだ。
草薙剣を見せてやろうか。
どうせ、この先も一人ぼっちなら。
いじめられない方がいい。
くだらない事を言う口を、ふさいでやろうか。
そう思って、左手をにぎりしめた時……。
後ろから、ふわりと抱きしめられた。
「!?」
あまりに意外な事に驚き、振り返ると。
当時から、誰より縦に長かった雅が、チビだった俺を抱き上げていた。
「あわわっ、か、柏原っ……!
離せよぉっ!」
まだばあちゃんに紹介されて間もなく、
さして仲の良くなかった雅。
人見知りの俺は、何と言っていいかわからなくなった。
すると、廊下から別の声がかかる。
「コウをいじめんじゃねー!
お前だって、みーんなに、嫌われてんだからなっ!」
それは、当時は同じくらいの背だった健太郎だった。
二人は何故か昔から周りに人気があった。
「健ちゃん、それは言い過ぎ」
調子に乗った健太郎を、雅が叱った。