私はベッドから降り、鉄の鎖をじゃらじゃらと音をたてながら、ずっしりと重い鉄枷を両手両足の首に着けながら、部屋の様子を見ながら歩く。否、鞄がないかを探して回る。

 けれど、やはりベッドの上から見たのと同じ光景で、何も置かれてはいなかった。

 この一室には窓とベランダがあるものの、私はその硝子に触れることは出来ない。鎖の距離が、触れられる手前でいっぱいいっぱいだからだ。

 そこから見えるわずかな景色を見る限り、やっぱりここはマンションかアパート……いや、どっちかというとマンションの方が的確かもしれない。それの上の方の階。

 窓やベランダに近付けないことから、それよりも長い距離の先にある玄関にたどり着くことは出来ないとを分かっていながら、私は玄関を真っ正面に捉えた。


「あ……!」


 これは神様が私を見放していない証拠だろうか。目と鼻の先に、私の鞄が壁にもたれさせるように置かれていた。

 高校の入学が決まった際、支給された専用の黒い鞄。間違いない、どう見ても私の鞄だ。

 見付けたことの嬉しさに胸を踊らせながら近付き、何回目かの足を上げようとしたその時──足は、グンッと引っ張られてそれ以上は伸ばせなかった。

 ……理由は分かっている。鎖の長さが限界なのだ。

 振り向いて足を見下ろしてみると、思った通り鎖がピンと真っ直ぐに伸びており、それ以上は進めない。


「……それなら」


 寝転がって腕を伸ばしてみようとしたが、手首の鉄枷と足首の鉄枷は同じ長さらしく、伸ばすことおろか、寝転がることさえ出来なかった。