「……いや、違う」

「へっ?」


 違う?それじゃあ、その袋は彼女宛てのプレゼントじゃないのか。あっ、それなら、母か姉か妹か……家族か親戚の人たちへのプレゼントか?

 もし、その家族か親戚の人たちに買ってくるように命令されたのなら、なんというか……可哀相ではあるが。そりゃあ、死んだ魚みたいな目をするのも無理はないな。


「俺が想いを寄せている女性への……プレゼントだ」

「へ~。そうなんッスか」


 なんだ。家族や親戚の人たちにパシられていたわけではないのか。そうかそうか、片想いか。

 相手の女性が、この男性のことをどう思っているのかなんて興味は無いけど……女性ブランドを取り扱う店に、周りの視線をものともせずに入ったのだから、そういう意味では相手の女性を本当に大切に思っている素敵な人だと思うぜ?俺は。


「実るといいッスね、その想い」

「……」


 嫌みでも同情でもなんでもない。本当に心の底から、その恋が実ればいいと思った。相手の女性を一途に想っているのは、なんとなく伝わってくるし。

 しかし、男性は何も言わずに俯いた。表情は長く伸びた前髪で伺えない。……って、やべっ!

 初対面なのに馴れ馴れしく話し掛けちゃって、もしかして俺、警戒されてるっ?!っていうか、なぜ俺も初対面なのにペラペラと話し掛けちゃっているんだっ?!

 お互いがお互い、ついさっき顔を合わせたばかりの、名前さえも知らない同士なのに……。