女性だらけの店内に男性が1人……どう見ても浮いている光景なのに、その男性なら違和感がないような錯覚を覚える。不思議だ。とにかく、不思議なオーラを身に纏っている男性なことは確かだった。

 選んでいる衣類は、親しい女性へのプレゼントなのだろうか。さすがに自分で着るため……ではないと思う。そう思いたい。

 衣類を何着か選んだその男性は、しばらくして衣類の入った袋を持って店から出て来た。買い物を終えたのだろう。

 ……うわ。身体、ガリガリじゃないか。ちゃんと飯を食っているのか?

 なんてことを考えてながら、遠くから男性を凝視していると……男性はよそ見をしていた女性とぶつかり、購入した衣類の入った袋を落とす。


「んもう!ちゃんと前を見て歩きなさいよねっ!」


 明らかによそ見をしていた彼女の方が悪いのに、彼女は謝りもせず、言いたいことだけを行ってどこかへと去っていってしまった。

 男性は何も言わず、ぶつかった際に落とした衣類の入った袋を順番に拾っていく。


「はい、これ」


 反射的に動いた俺の身体は、男性が落とした袋の1つを拾い上げていた。


「これ、落としたッスよ。酷いッスよねぇ、向こうが悪いのに謝りもせずに行っちゃうだなんて……」


 男性はゆっくりと顔を上げ、そして、俺の顔を見上げる。

 ──黒い、瞳だった。

 いや、日本人なのだから、黒い色をした瞳なのは当たり前だ。