私が好んでよく口にする、甘いココアの香りが鼻を掠めた。

 毒林檎を食して眠った白雪姫に、王子が口づけをして目を覚まさせるかのように……私はココアの香りに誘われてゆっくりと目を覚ます。

 ……お母さんが、私のためにココアを用意をしてくれているのだと思った。

 ……思ったのに、目が覚めたそこは全く記憶にない一室。目の中に飛び込んできた多くの“白”が、視界を一瞬、眩ませる。


「……ここは、どこ?」


 妙に重たく感じる上半身を起こす。

 見上げれば白い天井、視線を横にずらせば白い壁、淡い色の木で造られた何も置かれていない棚に、机。そしてクリーム色をしたソファー。なんとも白色が多い殺風景な一室だ。

 視線を奥の方に向けると、料理しているところが丸見えの台所が見える。

 広さや家の造りからすると、ここはアパートかマンションの一室……だろうか?

 でも、おかしいな。私の家は一軒家で、アパートやマンションでは暮らした覚えがないのに……。

 ……私、長い間、眠っていたのだろうか?自分の身体の重さがそれを物語っていた。

 自分の身体に目を落とす。……見慣れた自分の制服、だ。自分が通っている、家の近くにあるまあまあ有名な高校の制服。

 ……頭をフルに働かせ、何があったのかを思い出す。

 私は高校の下校中、後ろから突然だれかに口を塞がれて……そのあとの記憶は、ない。

 私は、その“だれか”に口を塞がれて気を失い、そして……この部屋に連れて来られた……のだろうか?