「いひやひゃん……。おねがいれすから、〝もう〟、ろこにも行かないれ……?」


 ──例えるなら、それは甘い猛毒だ。

 1度、服用してしまえば、手放せなくなる麻薬のような……そんな、甘い猛毒。

 ああ、里桜に有無を言わさずマンションに連れて帰ってきてよかった。

 あのままあの居酒屋にいたら、今頃はどうなっていたか分からない。……分かりたくも、ない。


「ああ。お前が望む限り、俺はもう、どこにも行かない。ずっと里桜の傍にいるからな」


 そう言いながら頭をゆっくりと撫でてやると、彼女は気持ち良さそうに目を細めながら擦り寄ってきた。


「ほんとーに?」

「ああ。絶対にだ」

「えへへっ。いひやひゃん、だーいすきっ!」

「……っ」


 また、ふにゃあとした笑みでそう言うものだから、視界がぐらりと揺れた。

 危険だ。里桜をこのまま野放しにしておくのは、大変危険だ。彼女が望んでも、今日は外には出してやらない。出してやるものか。

 今夜は朝までずっとお前を独占するから、覚悟しておけ。いいな?里桜。





 ──翌朝。

 酔いの覚めた彼女は、恥ずかしさのあまりか布団に包まったが、その可愛さは俺さえ知っていればそれでいい。

 ……そうだろ?


【了】