続いて、やたら里桜を触っていたであろう、田中と呼ばれる上司がこちらの存在に気が付いたが、この男は俺のことを知らない。故に、怪訝そうな表情を浮かべて食いかかってきた。


「なんだね? 君は。何か言いたいことがあるのならハッキリと──」

「汚い手で俺の里桜に触るな」


 お望み通り、ハッキリと言ってやった。


「は……あ? きたな……? さわっ……?」


 何を言われたのか、一瞬分からなかったようで、田中という男は言葉を詰まらせていた。

 かくして、俺の声に反応したのか、鈴木に抱き着いていた里桜が俺の方を向いた。刹那、彼女は……ふにゃあとした笑みを浮かべて、俺に抱き着いてきた。


「いひやひゃんだぁー!」


 すると、俺のことを知らない人達は、「噂のイケメン彼氏くんの登場だ!」とヒューヒューと口笛を吹く。

 俺を知っている人達は、俺がどういう人間なのか分かっているので、顔を青くさせたままだが……。

 どうでもいい。赤の他人が俺のことをどう思おうが、俺には関係ない。里桜が傍にいてくれたら、それでいい。それでいい、のだが……。

 ──気に食わない。

 里桜の酔った姿を、俺以外の人達が1番最初に見た事実を。無防備な里桜にやすやすと触れた男の存在も。いくら酔っているからとはいえ、俺以外の男に……しかも鈴木に抱き着いていたことも。

 すべてがすべて、気に食わない。