「あ、あの……本当にごめんなさい……」

「……里桜は、何に対して謝っている?」

「えっ? それは……仮に帰りが遅くなったら、一夜さんの晩ご飯が用意出来ないっていうことだし、一夜さんの傍にいられないから……」

「……構わない」


 気が付いた時、俺は無意識のうちにそう言っていた。


「……え?」


 里桜自身、予想だにしていなかったからなのか、呆気にとられた表情を浮かべた。


「行っても構わないと言ったんだ。会社の付き合いは大事だし、俺に気にせず行ってくるといい」

「一夜さん……」


 愛する里桜が俺の知らない会社の人達と飲みに行くだなんて、決して気持ちの良いものではない。

 しかし、「行くな」と言う権利が俺には無いのも事実。

 何かあれば盗聴器を通して助けを求めて来るだろうし、俺も状況次第では迎えに行けばいいか。


「ただし、何かあればすぐに俺に連絡すること。……いいな?」


 俺がそう問うと、彼女は安心したように微笑み、頷いた。

 もしかしたら、俺が会社の人達と飲みに行くことに反対すると思っていたんだろうか。前までの俺なら反対していただろうが……今は……。

 気が気ではないし……不安なのは事実だが、別に反対はしない。彼女がそれを密かに楽しみにしていたのなら、その楽しみを奪う権利は俺には無いからな。