「……篠原さん」


 そして、“あの”無関心を思わせるような声音で、桐生さんは私の苗字を口にした。

 ……どうせ寝ているふりをしていたって、無駄だ。そんなことは分かっている。

 私はもぞもぞと動いてシーツから顔を出し、おそらくアルバイトから帰ってきたであろう桐生さんに目を向けた。

 私と目が合うと、桐生さんは嬉しそうにスッと目を細める。


「焼き飯は、口に合ったか?」


 その問いに、私は何も答えない。答える気にもならなかった。


「……その様子じゃ、口に合ったみたいだな。……篠原さんの口に合っていたのなら、良かった」


 完食されて何も乗っていない皿を見て、桐生さんは言う。

 どうせ分かるのなら、いちいち私に聞かなくていいのに……と、私は心の中で毒を吐く。

 ふと、桐生さんの両手に視線を落とすと、そこには淡い紫色をした大きな袋が握りしめられていた。

 見たことのない袋からして、私が利用している以外の店で購入したもの……或いは貰いものだと思う。

 でも、袋に書かれている金色の英語の文字……どこかで見たことがあるような……なんだったっけかなぁ?

 とにもかくにも、袋の中には何が入っているのだろう……?


「これ……篠原さんに」


 私が不思議に思いながら淡い紫色の袋を見つめていると、桐生さんはその袋を私に向かって差し出してきた。

 この見たことのあるような無いような袋は、袋の中身は、私のために用意してきた……らしい。