けれど、そこから聴こえる声は里桜のモノではない。男の声。……司?何か必死に叫んでいる?

 ゆっくりと手を伸ばして盗聴器を手にした俺は、そっと自分の耳に近付けてその声を聴いた。


「桐生センパイ!聴こえてんだろ?!何を勘違いしてんのか知らないッスけど、里桜ちゃん、泣きながらアンタの家に向かったッスから!勝手にあうだこうだと結果を決め付けて、物事を進めてんじゃねぇっ!」


 ……つか、さ?何を、言って……。俺が勘違い……?


「この盗聴器、ちょっと里桜ちゃんから借りたんッスけど……。あのですね!俺は里桜ちゃんのことが好きで、隙さえあればセンパイから奪ってやろうって考えてました。けどね!けど……その隙なんかないくらい、里桜ちゃんはセンパイのことを想っていて……!なんていうか、その……好きな子が泣いているの、俺は見たくないんッスよ!」


 ……。

 知っていた。司が里桜に気があること。だからこそ、それを含めて、俺は司のことをいけすかなく思っていたところがある。

 それに、俺だって好きなヤツの……里桜の泣き顔なんて、見たくない。


「どうせアンタのことだから、里桜ちゃんが俺と浮気を――なんて考えているんでしょうけど!ぜんっぜん違うッスから!里桜ちゃんがどれだけアンタのことを想って、アレを求めて町中を探し回っていたと思っ……って、うわあああっ、今の無し!今のは里桜ちゃんから直接聞いてくださいッス!」


 ……え?