――だから、里桜の幸せを願い、里桜を愛する俺は、2人の前から消える。

 それが1番良い選択肢だと……俺は思ったから。


「もう、いい」

「えっ?」


 きょとんとしている里桜と司の横を通り、俺は自分の家に帰るために歩きだす。後ろで俺の名前を呼ぶ里桜の声が聴こえたが、俺は足を止めない。

 バカだな、里桜は。君が呼ぶべき名前は俺じゃなく、横にいる司だろ?

 楽しそうに笑い合っているところに水を差して悪かった。俺は消えるから、だから、君は笑って……?


●●●


 真っ白い自分の家に帰ると、俺はベッドに腰をおろしてうなだれる。

 盗聴器から何やら会話をしている里桜と司の声が聴こえたが、俺はそれを無視してベッドの端に放り投げた。

 今は、必要ない。少なくとも今は、2人の声を聴きたくない。自分の気持ちに整理がつくまで、何も聴きたくない。何もしたくない。何も……。

 ――いっそのこと、また里桜をさらって、この部屋に監禁しようか。

 今度は俺以外の奴は扉が開かないように整備して、手枷や足枷の鎖の長さを短くして、里桜の身の回りの世話は全部俺がする。

 金はある。仕事をする時間を減らして、里桜といる時間を増やそうか。それから。それから……。


「……馬鹿野郎」