このまま眠ってしまって再び目を開けた時、目の前には知っている人の顔があってほしい。

 お母さんやお父さんの顔はもちろん見たいのだけれど、今は洋佑の顔が1番見たいな。


「洋佑も……心配してくれているかな。……まさか、浮気……」


 そこまで言って喋るのをやめた。彼女である私が、洋佑を信じてあげられなくてどうする。大丈夫。洋佑は必死に私を捜してくれている。そう、信じよう。

 洋佑とはキスもまだだけど、あの気難しいお父さんはおろか、周りの人も私と洋佑の仲を認めてくれている。

 お父さんの口から、「結婚をするなら本田洋佑だな」なんていう言葉が、今までに何度飛び出してきたことか……。

 嬉しいような、気恥ずかしいような思いを何度もしてきた。幸せだった。なのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう……。

 ボーッとした頭で、洋佑との馴れ初めを巡らせていると……。

 ──がちゃがちゃっ。

 そうはさせないと言わんばかりに、玄関の扉の鍵の音が耳に飛び込んできた。

 思わず、息を、詰める。バクバクと、うるさいくらいに心臓が高鳴る。

 今が何時なのかは分からないが、どうやら、いつの間にやら桐生さんが帰ってくる時間帯になっていたらしい。

 それが無意味な行動だと知りつつも、私はシーツで身体全体を隠し、身を丸くした。

 鍵が解かれ、扉が開き、桐生さんが帰ってきた音がする。桐生さんの足音が聴こえる。……私に近付いてくる足音が聴こえる。