「……桐生センパイと2人っきりとか気をつけなよー?案外ぱくりって食べられちゃうからねぇ」

「へっ……?」


 熱にやられていない頭の時だったら、司さんが何を言っているのか分かるだろう。しかし、今の私には司さんが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

 「いいから早く行け」って睨む一夜さんの視線に背中を押され、司さんは「あははは、ジョーダンだよ♪」と、ビニール袋を片手に部屋を後にした。

 一夜さんと2人っきり……?ぱくりって食べられちゃう……?

 司さんの言葉を、熱に浮かされた頭の中で何度も繰り返すと、分かってしまった。司さんの言っていた意味が。もともと熱い顔が、さらに熱くなったような気がした。

 でも、大丈夫だよ。だって仮にも相手は一夜さんだし。男は狼だというけれど、一夜さんは不本意に襲ってくるような人じゃない。というか、今まで襲われた記憶がない。

 ……あれ?そういや、本当に襲われた記憶がない。襲ってくるようなそぶりもない、なぁ……。

 一夜さんが私のことを大切に思ってくれているのは、身に染みるほどに分かっている。

 けれど、そういう……恋人が隣にいて当然の行いというか、自然としたくなる行為というかなんていうか……キ、キス、とか、したいと思わないのかなぁ……?