いくら桐生さんがいないとはいえ、誰もいないとはいえ、1人で歌うのは虚しいような気がして……それに、やっぱり恥ずかしい。

 ……っ?!

 ま……待って。何を虚しがる必要があるの?何を恥ずかしがる必要があるの?

 ここで大きな声を出せば、その声を聞き付けた人が、隣人さんが、助けてくれるかもしれないのでは……っ?!

 どうして私は、こんなにも簡単なことに早く気が付かなかったのだろうか。

 私の手でこの部屋から出ることが出来なければ、向こう側から誰かに開けて助けてもらえればいいんだ……っ!


「すみませーん!私、桐生一夜という人に誘拐されて、監禁されています!誰か助けてくれませんかぁっ?!」


 今まで背を預けていた壁をドンドンと叩きながら、隣人さんに助けを求める。

 何度も。

 何度も、何度も。

 ……けれど、助けに来てもらえる様子がなさそうなどころか、隣の部屋からは何も返事が返ってこない。


「……留守、なのかな?」


 まさか空き室……なんていうことはないと思いたい。

 向かい側のもう片方の壁にも同じように助けを求めてみたが、先程と結果は同じだった。こちら側の隣人さんも留守なのだろうか。

 ……こちら側の部屋も、空き室だとは思いたくない。


「はぁ……はぁ……」


 大きな声を出し過ぎたために、息が切れていた。何度も酸素を体内に取り込み、やがて、私はベッドの上で横になる。

 ……疲れた。今はもう、動きたくない。