【一夜 Side.】


 ──本当は気が付いていた。


「桐生、さん、が、いなくなる、夢を見ちゃ、って……悲しく、て」


 彼女のふとした言葉や態度を見て、俺は本当は気が付いていたんだ。


「桐生さんっ、あのね、私……」


 だからこそ、気が付いていたからこそ、それ以上、彼女が言葉を紡いでしまわないように、制止をかけた。

 ──ストックホルム症候群……と、いうのだろうか。

 俺が監禁を行ったせいで、彼女が俺に対して“一時的に”想いを抱いてくれたのだとしたら……。

 「想いを抱いている」のだと“自分に思い込ませている”、“思い込もうとしている”のだとしたら……。

 彼女に助けがきて、部屋を出られて自由になった時、彼女は束縛から放たれた影響でふと我に返るだろう。

 そして、一瞬でも俺に対して想いを抱いていた、想いを抱こうと思い込もうとしていたことにショックを受けるだろう。