訪れたのは、静寂の世界。

 さっきまで2人で会話をしていたのに、春香さんが消えていなくなったことにより、辺りは面白いくらいに静寂に包まれた。

 ゆらりと揺られて、まるであたたかい水の中にいるかのような、不思議な感覚の気持ち良さに思わず目を閉じる。

 海の中は、お母さんのお腹の中と似ているとどこかで聞いたことがある。

 だからこの……あたたかい水の中にいるような不思議な感覚が気持ちいいと感じるのだろうか。

 でも、私は、この世界から出なければならない。夢から覚めなければならない。

 ただでさえお父さんや友達を心配させてしまっているのに、これ以上ここにいるわけにはいかない。

 魚が生きようと水を求めるように。獣が生きようと狩りをするように。鳥が生きようと羽を動かすように。つらく、苦しくても、今を必死に生きようともがく生物のように……。

 家族や友達との心の絆や、心のぬくもりに触れた時の優しさを求めて――私は目を覚ました。


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 ──白。そこは、白だった。

 桐生さんの家の天井の白さに似ていて、嬉しくて心臓がドクンッと跳ね上がったけれど、次の瞬間、お父さんが顔を覗き込んで来たことにより、(ああ、ここは桐生さんの家ではないのだ)と……顔には出さないけれど落ち込む。