「君には関係のない話だろう」

「まさか……人には言えないような人を好きになったとか? 熟女か……はたまた幼女か。ま、まさか親戚……なんてことはないっすよね?」

「はぁ……。言わないとダメか? 俺は恋人や片想いの人を、見せ物のようには考えたくないんだが?」


 俺がちょっとばかし強めに言うと、本田洋佑はシュンッと肩をすぼめて申しなさげに謝った。


「……もういいだろう。用が済んだのなら帰ってくれ。俺は忙しい」

「……客、いないっすよ?」

「……暇をすることに忙しいんだ」


 次の瞬間、本田洋佑は吹き出した。


「薄々気付いていたんっすけど、桐生さんってどこか面白いっすよね」

「はぁ……?」

「ますます桐生さんのことが気になりました。また、気分が乗ればここに来るので、お話させてください。……たとえ桐生さんが俺のことを嫌いでも、ね」


 コイツ、俺の心情に気が付いていた……?

 本田洋佑は立ち上がり、店の入り口へと歩いていく。何も頼んでいないため、お金を払わなくてもいいのは確かなのだが。


「じゃあ、桐生さん。また」

「……ありがとうございました」


 微笑みながら俺に向かって手を振った本田洋佑は、店を出て行った。

 “また”って……俺は2度と会いたくないのに。


 ──俺は、世界で1番、本田洋佑のことが嫌いだというのに。