「……篠原さん」

「うぅっ……ひっく……」

「……家に、帰りたいか?」

「──っ!」


 その言葉に、涙が止まる。

 おそるおそる桐生さんの顔を見ると、やっぱり悲しそうな表情を浮かべていた。いや、辛そうな顔とも言えるかもしれない。

 ……どちらにせよ、本音は帰したくないと言っている表情だ。

 私はなんて言葉を返したらいいのか分からなくて、ただただ桐生さんの出方を伺う。


「……そうだよな、いちいち言われなくても、分かっている。分かってはいるが……俺はっ、篠原さんのことを愛しているっ!」


 桐生さん……。


「悪いことは言わない。本田洋佑(アイツ)はやめておけ。本田洋佑(アイツ)のことはもう……忘れろ」


 「やめておけ」?

 「忘れろ」?


「そんなことを言われて、“はい、忘れます”って出来るわけがないじゃないですか……っ!」


 私は洋佑のことが好き。そんな簡単に付き合うことをやめようとか、忘れるとか、出来るわけがない。──否、したくない。

 桐生さんは辛そうな表情で私を見つめたあと、やがて目を伏せた。


「本田洋佑(アイツ)“だけ”は、やめておけ……」


 そして、そう小さく呟いた。