「春香ちゃん……早くそんな酷い彼氏と別れちまえばいいのにな。噂で聞いたんだが、春香ちゃん、傷だらけになっても笑っているらしいじゃないか。辛いはずなのに……。強がっているのかな……」

「……っ」


　ちょっと待てよ、佐藤。それって、まさか……俺が幸せになれだなんて言ったからか？だから、春香は笑っている？

　……いや、分からない。

　周りの人から見て、その行為がどれだけ酷くても、その愛がどんなに歪でも、春香は幸せだと思っているのかもしれない。

　俺が「幸せじゃない」と勝手に決め付ける権利は……どこにもないんだ。


　──それから、さらに数日が経った頃、俺は佐藤に告げられた。


「桐生。いいか？　今から言うこと、落ち着いて聞いてほしい」


　聞いて、落ち着いてなどいられるはずがなかった。そもそも、その真実そのものを聞きたくなどなかった。……けど、遅かれ早かれその時はやってくる。


「春香ちゃんが……」


　耳を塞いだとしても、それは変わらない真実なのだ。


「……殺された」


　──意識が遠くなっていくような気がした。頭の中が白く玉砕していくような気がした。目が、左右に揺れる。息が、出来ない。