──季節は、桜が満開の花を咲かせて花吹雪のよう舞うころ。
俺より少し前を歩く恋人の春香と、桜並木を歩いていた。その道中、ピタリと足を止めた春香は、くるりと振り返って俺を見る。
舞い散る桜なのか、春香がつけている甘い花の香りの香水なのかは分からないが、柔らかい香りが鼻を掠めた。
……俯いている春香の表情を伺うことは出来ない。
「一夜くん。私ね……好きな人が出来たの」
唐突の発言だった。
だが、俺が冷静でいられるのは、そう言われることを薄々と気が付いていたからだ。
「その好きな人に告白されちゃって……私、嬉しくて、思わず『いいよ』って……言っちゃった」
「……そうか」
「……ごめんなさい」
肩を震わせている春香の声。……泣いているんだ。
「俺と別れるだなんて許さない」――そう言われると思ったからかもしれない。
春香は優しくて、なんでも1人で背負い込むような奴だから、この話を切り出すのにどれだけ悩み、苦しんだのだろう。
「……別に。謝るなよ。新しい彼氏と……幸せにな」
そう言ってやると、春香はバッと俺の顔を見上げた。
「……うんっ」
涙に濡れた瞳を細めて微笑む春香は、大きくうなずいたのだった。
俺より少し前を歩く恋人の春香と、桜並木を歩いていた。その道中、ピタリと足を止めた春香は、くるりと振り返って俺を見る。
舞い散る桜なのか、春香がつけている甘い花の香りの香水なのかは分からないが、柔らかい香りが鼻を掠めた。
……俯いている春香の表情を伺うことは出来ない。
「一夜くん。私ね……好きな人が出来たの」
唐突の発言だった。
だが、俺が冷静でいられるのは、そう言われることを薄々と気が付いていたからだ。
「その好きな人に告白されちゃって……私、嬉しくて、思わず『いいよ』って……言っちゃった」
「……そうか」
「……ごめんなさい」
肩を震わせている春香の声。……泣いているんだ。
「俺と別れるだなんて許さない」――そう言われると思ったからかもしれない。
春香は優しくて、なんでも1人で背負い込むような奴だから、この話を切り出すのにどれだけ悩み、苦しんだのだろう。
「……別に。謝るなよ。新しい彼氏と……幸せにな」
そう言ってやると、春香はバッと俺の顔を見上げた。
「……うんっ」
涙に濡れた瞳を細めて微笑む春香は、大きくうなずいたのだった。