不思議に思いながらも、桐生さんの言葉にそっと耳を傾けていると、桐生さんは私が予想だにしなかった一言を告げた。


「自分でくり抜いた」

「……え?」


 くり……抜いた?


「春香がいなくなって……守れなかったことへの罪滅ぼしだったんだろうか。……気が付いたら、俺は自分の左目をくり抜いていた」

「……」

「馬鹿だな……。こんなことをしても、春香は戻ってこないのに……。――だから、今度は守るから。今度は絶対、篠原さんを守るから」

「桐生さん……」


 私の身体を強く抱きしめる桐生さんに、私はどうすることも出来なかった……。

 それが嬉しいのか悲しいのか……それとも鬱陶しいのかが分からなくて、情けないことに泣きそうになる。


(本当は分かっている)

(ただ、信じたくないだけ)

(認めたくない、だけ)


 しばらくして音もなく立ち上がった桐生さんは、私の頭をくしゃりと撫でた。


「……抱きしめてしまって、すまない。嫌だっただろ?」

「そ、そんなこと……」

「強がるな。……表情を見ていたら、分かる」


 違う。違う。多分、私の今の顔は、桐生さんのせいじゃなくて、自分のせい。自分で自分の気持ちを……認めたくないから。