「桐生さん!これ……!」

「……欲しいと言っていただろ」

「い、言いましたけれど……。いつ、取ったんですか?」


 両替をしに行ってからは、あの男性たちに話し掛けられるまでは1度も戻ってきていないし、クレーンゲームをする余裕なんてなかったはずなのだけれど。


「……両替機のすぐ近くに、同じ台があった。すぐにでも取れそうな位置にあったから取った。そして、篠原さんのところに戻ってみれば……君は、連れていかれそうになっていた」


 なるほど。そうだったんだ。少し戻ってくるのが遅いなって思っていたけれど、そういうことなら納得だ。

 机の上に置かれた白いうさぎのストラップを手にとり、抱き寄せる。


「桐生さん!ありがとうございますっ!」


 自然と笑みが零れ出た。笑顔でお礼を言うと、桐生さんも嬉しそうに微笑む。


「……君は、その表情の方がいい」

「え? 今、なんて……」


 白いうさぎのストラップが嬉しくて、桐生さんの言葉が聞き取れなかった。


「気にするな。ただの独り言だ」


 そう言われてしまったので、私は追求することもなく、この場に漂うほんわかとした空気に、しばらくの間、身を任せていたのだった。