「きゃっ?!」


 突然の強い力に、私に抵抗する力を与える間もなく、綺麗に桐生さんの腕の中にぽすっとおさまった。

 ドクン、ドクンと、すぐ耳元で桐生さんの心臓の音が聴こえる。

 というか……えっ?私、桐生さんに抱きしめられて……いる?理解した瞬間、顔に熱が集まるのを感じた。


「あ、ああああの……」

「いくな」


 すぐ頭の上から桐生さんの切なげな声が降ってきて、私の身体は動けなくなる。


「もう少しだけ、傍にいてくれないか」


 切実なその言葉に、私は抵抗する術を忘れた。

 壊れ物を扱うかのように優しく……だけど、離れないようにと強く抱きしめられ、私の心臓は激しく暴れる。


「愛している」


 不意に、愛を紡ぐ言葉が降り懸かってきた。その声音は、すぐに壊れてしまいそうなほどに弱々しいけれど、でも……根強い何かを感じる。


「愛してしまって……すまない」


 人が人を愛することに、誤りなんてないと思う。謝る必要なんてないと思う。思うからこそ……その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる思いだった。

 出会い方が少しでも違っていたら、こんなことにはならなかった?自分の想いを押し殺す必要なんてなかった?素敵な恋をしていた?

 そんなこと……今となっては分からないことなのは、確かだった。