「篠原里桜(りお)。霧野宮高校に通う1年B組。4月8日生まれ。O型。現在は16歳。身長は161cm。体重は……」

「──もう結構ですっ!」


 ゾッとした。

 私のプロフィールを詰まらずに話せた辺り、彼は本当に私のことをなんでも知っているようだ。

 それじゃあ、私がココアを好きなことも知っていて、だからこうして用意してくれたのだろう。

 ……けれど、それが好意なのだとしても、嬉しくない好意だ。


「……篠原さんが、どれくらい自分のことを知っているのかを聞いてきたのに」


 嫌みのような口調でもなく、私を責めるような口調でもなく、彼はただ、ポツリとそう言った。

 “殺すつもりではないのならば、どうしてこんなことをしたんですか?”……それを聞こうとしたけれど、怖くて聞けない。

 ……だから、私は、「あなたは、だれなんですか?」──と、彼のことについて問うてみた。

 彼は、相変わらずの無表情と無関心を思わせるような口調で言う。


「俺の名前は、桐生一夜(きりゅう いちや)。……たしか、そんな名前だったような気がする」

「……ような気がする?」

「……自分に興味がない。それと、記憶が曖昧なんだ」

「そう、なんですか」


 自分に興味がないのは……まぁ、私には関係のないことだけれど、記憶が曖昧とは、一体どういうことなんだろうか?

 もしかして、記憶喪失、とか……?いや、でも、なんらかの理由があるから、彼は私のことを誘拐したわけだし……。

 自分に興味がないと、自分の記憶も曖昧になってしまうものなんだろうか?