怖い。ただただ怖い。これから何をされるのか、どんなことが起こるのか、先のことが分からなくて、ただただ怖い。


「……そうか」


 何かされるのではないかと身体を震わせた私は、たったその一言で会話を終わらせたことに呆気にとられる。

 男性は窓の外を眺める。しばらくの静寂が続いた後、私はまた、勇気を出して話し掛けた。


「……あなたは、私をどうするんですか? ……殺す……んですか?」


 “殺す”という単語を口にした時、恐怖で声が震える。男性は真っ黒な右目をこちらに向け、私に問うた。


「……何故?」

「……え?」

「……何故、俺は篠原(しのはら)さんを殺さなければならない? 殺さなければならない理由が、どこにある?」


 ……この人は……私を殺すつもりでこんなことをしたんじゃない……のだろうか。それはそれで安心せざる得ないのだけれど、今……彼はなんて言った?

 “篠原さん”、と……“私の苗字”を……口にした?


「どうして、私の苗字を……?」


 私がたまたまあの道を歩いていたから狙われ、誘拐したわけではなく、以前から私のことを知っていて……それで誘拐をしたの?

 ということは、やっぱり彼は私のストーカーなのだろうか……?


「……俺は篠原さんのことなら、大抵のことは知っている。……すべて、調べてきた」

「調べてきた……って、そんな。私のこと、どれくらい知って……」


 彼は1度だけ目を伏せ、そして再びこちらを見た。