「桐生さん?」

「……俺は、欠けている」

「……え?」


 か、欠けている……?何が?どういうこと?桐生さんの突然の言葉に、私の口はぽかんと開く。


「おそらく、人として……1人の男として、失ってはいけないモノが欠けてしまっているんだろう」

「それって……」

「すべて、壊れてしまったんだ」

「……」

「決して、篠原さんに魅力がないわけじゃない。むしろ、君は魅力しかない。そうじゃなければ、俺は君をさらったりしない」


 桐生さん……。

 1人の男性として失ってはいけないモノって……せ、性欲、とか?肉体的な欲求を離れた、精神的な愛がどうのこうのっていう、プラトニックラブっていう言葉も当て嵌まるんじゃないのかな?

 言われてみれば、桐生さんの部屋の中にはテレビもパソコンも、雑誌の類もない。アダルト関連のものが、一切置かれていない。

 それじゃあ、桐生さんは私の下着姿を見て無表情尚且つ無反応だったのは、そういうことだったの……?


「俺は……洗面所に入って君の姿を見て思ったことは、“風邪を引いたらいけない、君の身体を守らなければ”……だ。君を守る、それだけだ」


 ハッキリとそう言われ、なんて言葉を返したらいいのか……戸惑う。