近くの古本屋に入った時点で、綾桧の傘の下から離れた俺の体はしとどに濡れていた。
肩にかけていた革のバッグからも水滴が滴り落ちる。

…惨めだ。

横で立ち読みをしていたおばさんが、俺の姿を見てあからさまに嫌悪の表情を浮かべた。




……惨めだ。最高に惨めだ。
















…綾桧は、今何を考えているのだろうか。









こんな俺のことを。自分のことを想ってくれている女の気持ちを受け止めるどころか、話を聞きもせずに逃げ出した俺のことを。


考えていて欲しくなかった。











…情けない。ただ情けない。