「奏、」
親父が中央に向かって歩いてくる。その半歩下がって榊も続いて歩いてくる。
威圧感ある親父が歩くだけで周りの目を集め、中央に注目が集まっていく。
「森内」
ざわめきが消えていく中、誰もが息を飲んでみつめている。
「森内、おまえに渡したいものがある」
つ、と目線だけ榊に向けるとすぐ後ろにいた拓也がふたつのワイングラスを差し出した。
「森内、受けとれ」
森内は蒼い顔して震える指で命じられたままグラスを受け取った。
「これに見覚えはあるか?」
微かに頭を下げた榊の手から親父が小さな袋をふたつつまみ上げる。
りおが彼女らから預かった毒薬だ。
小さな袋の端に赤色の印をつけてある。
「……ありません」
森内の声が最後は聞き取れないほど小さくなった。
「そうか。わかった」
さらさらさら
森内の握っているグラスに袋に入った粉を振り入れた。