埃ひとつない長い廊下を歩く。
ふたり無言で歩き灯りのさしている部屋の前で足を止め正座し障子の奥に声を掛けた。
「親父に話したいことがある。入ってもいいか?」
「入りなさい」
奥から親父の低い声がした。
りおとふたり中に入り正面を向くと、作務衣を着た親父がひとり庭の方を向いて座禅を組んでいた。
背中を最初から向けていたのは端から俺の話を聞く耳は持たないということだと知れた。
向き合う必要がないと、完全に拒否した背中だった。
「親父に彼女との結婚を認めてほしい」
「……許さんと言ったら?」
親父はそのままの姿勢を崩すでもなく庭の方を向いたままだ。
「許してもらうには?」
顔を見ずに交渉は決裂だ。
俺が選んだ女をひとめ見るでもなく親父の背中は完全に拒否していた。
「わしを倒すしかないな」