「…さくら?」
窓から見える風景はこれから冬になるのに季節ハズレの桜が咲いている。
「時々二度咲きする桜があるんですよ。ここしばらくは寒かったので、急に暖かい日が続くと春が来たと勘違いする桜の木もあるんです」
住職が目を細めて笑い合掌した。
「あなた方に感謝してるのだと思いますよ」
ここから見える数本の桜の木が見事に花をつけている。
「さて、娘さんに会いたいでしょうから、これから納めますね」
「お願い致します」
桜の花の下。
丸井を娘の眠る場所へと納める。
そして、胸から取り出した手帳もそっと中に入れた。
「丸井…」
「丸眼鏡さん…」
静かに手を合わせる。
丸井が。
あの世で娘と穏やかに過ごせるように―――
この桜の下。
穏やかな眠りが永遠であるように―――