夜明け前。



屋敷に戻るとそのままベッドにりおを押し倒した。

数時間前にふたり血に濡れたその両手で抱き締め合う。



「……りお」


さらりと溢れて広がった髪からりおの花の香りがした。


「りお」

「そう、さん」


見つめる黒曜石の瞳は濡れて甘い。

りおの両手を頭の上でひとくくりにし片腕で動きを封じた。


「りお」

「……そう、」


柔らかく薄いピンク色のくちびるを何も言えないように塞ぐ。


「んっ、」


潤んだ瞳から溢れた雫がこめかみに伝って落ちた。

「………」



わかってる。

今日一日で世界が動いた。

争いが争いを呼び、流さなくていいはずの血が流れた。

失っていいはずの命なんてひとつもない。
奪っていいはずの命もひとつもない。

ましてや、りおはこの世界の住人でもない。
初めて目にしたひとの死は酷くりおを傷つけた。