土曜日の夕方…電話がかかってきた。г明日、契約金の一部の100万円を持って行きますので領収書を書いてください。その100万円はそのまま社長さんへ渡してください」
電話の主は、稲川さんだ…彼女はちょっとおっちょこちょいだけど…決して人を騙すような事はできないはず…
そんな彼女がいきなり常識的では無い事を言ってきた。
今日は土曜、明日は日曜…家の売買の契約をするには無理のある週末…
こんなに突然では銀行に相談する訳にも行かない。
この家を売る為に費やした今迄の時間を振り返ると、これが最後のチャンスだと自分に言い聞かせてみても…不安の方が打ち勝つ。
『銀行に相談してからでないと契約はできないので、明日は無理ですよ…月曜日以降にして貰えませんか?』
г大丈夫、大丈夫、先方はとにかく契約を交わしたいみたいみたいだから明日の方がいいよ…」
『私は納得のいかないやり方は嫌いなんだけど…』
гでも、社長はすぐって言ったらすぐに動かないと駄目な人だから…」
…私はまだ、その社長を信じていない訳だよ…
呆れた気持ちがそのまま声になりそうなのをこらえた。
しかたがない…明日はその面々に会わなくてはならなそうだ…