男は珠明の額に掌を当てた。

 亡き父と弟以外の異性に触れられるのは、ほとんど初めてといって良いような珠明であったが、不思議と恐怖は無かった。

 むしろ、手を当てられたところから、清涼感が広がっているようである。

「随分と、無理をしたようだな。これでは、倒れるのも仕方があるまい」

 桂桂は、姉の顔が見る見るうちに生気を取り戻していくのを、間近に見た。

 萎びた花が水を得て蘇るような、そんな目覚しい光景だった。

「どうだ」

 やがて、男が手を外した。

「とても……体が楽になりました。頭痛もすっかり……」

 手を当てられただけなのに、一体どういうことであろうか。

 珠明はその不思議さに瞬きながら、男を見た。

 男の目が、優しげに細められる。

「それは良かった。今度から、無理はやめるのだな」